迫真の大犯罪小説、その醍醐味 高木彬光「白昼の死角

西武鉄道オーナー支配の終焉とライブドアのフジテレビ乗っ取りは、日本の今をわかりやすく象徴する経済事件ですが、ずいぶん前に読んだ高木彬光「白昼の死角」には戦後動乱期の経済社会を象徴する類似のエッセンスがあったような思いがして古い日記をめくってみました。
既成秩序の崩壊と新たな犯罪者像(2002年4月21日記す)
高木彬光の作品を読みふけったのは高校生のときであった。松本清張からはいったミステリーの世界であったが、当時の清張、水上勉、黒岩重吾等いわゆる社会派推理小説とは異質の犯罪者像を見出し、それが新鮮でまた魅力的に感じられた。特にこの「白昼の死角」とその後の「誘拐」は当時受けたインパクトが今でもそのままに記憶されているほど印象的な作品であった。日本ミステリーの名作が数あるなかでわたしは「白昼の死角」を最高レベルの傑作だと思っている。
当時の以下のような事実を物語の背景として巧みにフィクションと融合し、迫真の犯罪小説に仕立てている。
昭和23年1月極東軍事裁判、東条英機に対するキーナン主席検事の反対尋問
片山哲内閣総辞職、芦田内閣誕生。闇米に手を出さなかった山口判事の栄養失調による死亡。
帝銀事件→。
闇金融 出資法違反、高金利 太陽クラブ発足 物価統制令違反
南北朝鮮独立、中国全満州を制圧、ベルリン封鎖。昭和電工疑獄と芦田内閣の瓦解、吉田内閣成立。東京裁判最終判決。戦陣訓「イキテ虜囚ノ辱シメヲウクルナカレ」軍人勅諭「上官ノ命令ハ即チ朕ノ命令ト心得ヨ」
昭和24年5月東京、大阪、名古屋証券取引所再開。株式ブーム
有価証券の偽造
シャープ日本税制調査→やがて12月に株式の暴落
下山事件
太陽クラブ崩壊
昭和25年
手形のパクリ
6月北朝鮮軍38度線突破
昭和26年
昭和27年 株式上げ相場
28年2月記録的な暴落
吉田首相の馬鹿野郎解散、スターリンの死→朝鮮戦争終結へ→詐欺のチャンス到来
昭和23年は極東軍事裁判の最終判決が下った年であった。昭和電工疑獄による芦田内閣の瓦解や帝銀事件、これまでの「日本的なるもの」の崩壊と新たな価値観の台頭が如実にあらわれる時にあたったが、この時代を背景に東京大学の現役学生があたらしい犯罪ビジネス組織を創設、現在で言う出資法違反の資金集め、闇金融と手形パクリなど知能的詐欺行為で完全犯罪を繰り返すお話である。証券市場再開と株式ブーム、さらにシャープ勧告を契機にしたデフレ発生と株式市場の暴落、朝鮮戦争勃発による好景気とスターリンショックによる大暴落、これらの戦後の大混乱と密接に関わる新奇の詐欺行為、知能犯罪を10年間、若者たちは遂行していく。
実に傑作である。
1 ワルであり悪漢であり知能犯の主人公に読者が共感していく、これはビカレスクロマンとされるジャンルであり、アルセーヌ・ルパンとか日本で言えば鼠小僧の冒険のような類なのだが、これは日本発本格的作品としてのその代表格であろう。
2 時代背景を実に巧妙に取り組んだそのリアリティーに驚く。
3 さらに当時の法律に直接関わる具体的犯罪を描くことでそのリアリティーはさらに迫真性を持つ。
4 「犯罪は投機のようなもの、賭けとは違うんだよ。危険はあるが、知恵と力で何とかその危険はのり越えられる、ちょうど熟練した登山家がどんな危険な岸壁でも征服できるようにね。おれはこの1年、たいへんなスリルを味わいながら自分の計画した犯罪にはひとつのこらず成功してきた。投機はやり方ひとつでは、勝率10割に高められる。これからどんな犯罪をやっても、おれは絶対に失敗しないよ」と主人公はうそぶくのだが、現在のマネーマーケットにおける若き成功者がいたら、そのディーラーはかくのごとき発言をするのではなかろうか。
5 社会派の作品では犯罪行為は目的遂行のためにやむなく起きるのであるが、正面から犯罪行為そのものを目的として描かれた、とにかく当時としては異色のミステリーであった。
オジサンの書評集「よっちゃんの書斎」>「ミステリーの部屋」をごらんください。
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