2002年1月8日 エルロイ「アメリカン・デス・トリップ」
2005/03/07 23:58[下へ]




実は、昨年暮れにはエルロイ「アメリカン・デス・トリップ」を読み終え、正月休みにはものごとが上昇基調を取り戻すであろう年にふさわしい前向きな作品をすがすがしい気持ちで読むはずでしたが、やはり底打ち感が見えない現実の厳しさを反映してかズルズルとこの暗黒小説をひきずってようやく読み終えた具合です。

前作「アメリカン・タブロイド」でCIAと犯罪組織の結託によるキューバ侵攻作戦からケネディ暗殺にいたる現代アメリカの暗黒史が描かれましたが、これは直後のダラスから始まる。暗殺の事実隠蔽のための関連者抹殺が開始される。FBIによる「真相」のでっち上げが行われる。平行して大富豪によるラスベガス乗っ取り、マフィアの組織防衛、ベトナム戦火の拡大と反戦活動の盛り上がり。ベトナムにおけるヘロイン製造と武器の横流しにかかわるCIAとマフィア、FBIとマフィアと労働組合、人種差別主義のKKK間の利害の対立と一致、キング牧師を中心とする公民権活動の高まり、ロバ−ト・ケネディ上院議員の大統領選出馬と既存勢力の反動などなど語られる事件は山ほどある。登場人物も数え切れない。主人公はワルの三人(悪徳警官、組織の殺し屋、マフィアの顧問弁護士)彼らがこの騒然とした社会におのれの欲望を満たさんがため暴走する。しかし、マフィアやFBIに翻弄され裏切られ、破滅に向かう。そして、キング牧師とR・ケネディ大統領候補の暗殺。

ストーリーが複雑すぎる。しかも特異な文体で、背景説明を極力省いてある。事実と虚構との区別は日本人ではつかないのが普通でしょう。途中何度か放り出したくなりました。
下巻に入っていくらかストーリーがまとまってきます。しかし、前作の「アメリカン・タブロイド」を読んでいないとまるで理解できないかもしれません。理解できない小説はいい小説とは言えない。

しかし、ここまで壮大に闇世界と政府の結託を書かれますと、アメリカという国が性悪説を日常生活の根本原理にしなければならない事情だけは良く理解できる。
「政・官・財の癒着」「総会屋との呪縛」「不透明な会計制度」「不充分なディスクロージャー」「マーケット原理を無視したビジネス慣行」「株主不存在のコーポレートガバナンス」。
日本が国際社会の一員として認められたいならこのような体質を根本から変えなくてはいけませんと親切に啓蒙してくれるのはいいが自分のことを棚に上げているのが見え透いているからうかうかと賛同できない。

「和をもって貴しとなす」暮れにNHKで聖徳太子が放映されていました。照れくさいけれどこの言葉の響きに共鳴します。日本的な考え方もやがて見直される時が来るのではないかな。21世紀は20世紀の枠組みが崩壊する前兆をもって始まったような気がします。

オジサンの書評集「よっちゃんの書斎」>「ミステリーの部屋」をごらんください。






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